110-027 エンジンを切るときやかけた時に空ぶかしするのは重要な意味があるってホント?
メルマガ「クルマとカー用品の常識 ウソ? ホント?」第16号・17号掲載
  この光景ってよく見かけますよね。
 エンジンを切るときに、一度アクセルペダルをグイッと踏み込んでエンジンの回転数を上げてから切ったり、エンジン始動時にかかるや否やイキナリ全開モードかと思うような始動をされる方も少なくありません。
 このよく見かける行動が意味があるのかどうか、今回は確認してみましょう。

 さて、停止時と始動時を一緒に書くとわかりにくくなると思いますから、今週と来週2週にわたって、このテーマを取り上げることにしました。
 というワケで、今週は停止時の空ぶかしについてです。

{エンジン停止時はどうなのか?}
 なぜ空ぶかししてエンジンを停止するのかという理由を先に調べてみなければいけませんね。
 このエンジン停止時に空ぶかしという動作は、かなり古くからおこなわれていました。
 その理由付けについてですが、次回の始動が容易になるというのが理由だったようです。

 まず、なぜ空ぶかしすると次回の始動が容易になるかというと、アイドリングで放置していると燃焼室の温度が低くなり、プラグの状態が悪くなり(かぶった状態になるという意味です)、そのままエンジンを停止すると、かぶりぎみな状態のままでエンジンを始動させないといけなくなるために、一度空ぶかし(我々はレーシングと言ってます)をすることで、プラグの状態を改善してからエンジンを停止するという理由が中心だったのです。
 それだけ昔のエンジンは、燃焼室の構造、プラグや点火系の性能などが理由で、全開領域とアイドリング領域でのバランスがとれるセッティングが難しかったというワケです。

 では、現在のエンジンではどうかというと、通常使用している範囲でプラグやエンジン調整に問題が無い場合は、アイドリングで再始動が難しくなるようなプラグの状態になることはありません。
 したがって、停止直前に空ぶかしする意味は無いのです。

 もし、現実問題として、空ぶかしすることで再始動の状態がはっきりと良くなる場合は、

1.エンジンの基本調整に問題がある。
2.プラグやプラグコードが劣化しているかプラグの種類や熱価が適切ではない。
3.アイドリング領域を犠牲にするチューニングをしている。
4.アイドリング領域を犠牲にせざるを得ない特性のエンジンである。

 と言ったところでしょうか?
 特に4番の理由は、現在の車ではほとんど存在せずに、高回転重視のバイクなどが中心だと思われます。
 というワケで停止時に関しては、一般者の場合このテーマへの回答はウソです。

 ところが、アイドリングでエンジンがまったくかぶらないかというと、実は時々症状として「かぶり」現象が発生する事があります。
 特に、外気温度がある程度低いときに、ちょっと車庫入れなどで30秒とか1分程度エンジンをかけて停止するというようなことを繰り返していると、始動時増量や冷間時増量と言って、エンジンをかけ始めてしばらくの間やエンジンが温まっていない間、燃料を濃い目にセッティングするように最近のほとんどのエンジンは制御されています。(キャブレター車、電子制御車も同じです)
 そのために、こういう30秒程度の使用を繰り返すと、「かぶり」状態になることがあり、それでエンジンの始動性が低下することがあるのです。
 それを防ぐためには、冷えている状態で短い時間の始動、停止を繰り返さないようにすることも大切です。

 ただし1つだけ空ぶかしをしてもよいシチュエーションがあります。
 それは、長くアイドリングを続けて放置している場合、その車のエンジンの状態が良ければ良いほど水がたくさん発生します。(ガソリンは完全燃焼すると炭酸ガスと水になるのです。。。。もちろんその他成分もありますが)
 アイドリングで長く放置している車のマフラーから水分が結構飛び散っている光景を見かけることがあると思いますが、この水のことです。
 その事自体はエンジンの状態が良い証拠なのですが、排気系にある程度水が溜まったままでエンジンを停止すると、寒冷地では排気系の中で凍結することがあり、そのマフラーの内部構造などによっては、その氷が排気抵抗になってエンジンがかかりにくくなることがあります。
 したがって、シッカリ走行した直後であれば全く支障ないのですが、しばらくアイドリングで放置していた場合は、一度空ぶかしして、その排気圧力で排気系に残っている水分を押し出しておいたほうが良いかも知れません。

{エンジン始動時はどうか?}
 さて次は、エンジン始動時の空ぶかしについての検証です。

 いきなり結論をお話しますが、はっきり言って百害あって一利無しというのが結論になります。
 まず、エンジン始動直後というのは、エンジンオイルが各部に行き渡っていないために、オイル無しの状態でこすれ合うという「ドライスタート」の症状を引き起こしてしまいます。
 これは、オイルが行き渡っていないために、金属部品同士が直接こすれて磨耗を促進するだけでなく、オイル(と、その圧力)によって部品同士が微妙なクリアランスを保っているという本来の姿ではなく、部品が必要以上の余計な動きをして強い衝撃でぶつかり合い、偏った磨耗まで引き起こしてしまうためにエンジンの寿命が短くなるのです。
 この現象は通常のエンジン始動時も同じなのですが、その時に空ぶかしなどで回転数を高くすると、さらにそういった問題を大きくしてしまうのです。
 特にエンジンに使われている地球上の金属(合金はありますが、多分宇宙から持ってきた素材は無いと思います!?!?)は冷えているときには「もろく」柔軟性も低いために、余計にエンジン始動直後に空ぶかしはエンジンを傷める原因になるのです。
 長距離を連続して走ったり、1度エンジンを始動したら連続して使いつづける長距離トラックやタクシーのエンジンの磨耗が、使っているオイルのグレードが比較的良くないにもかかわらず、磨耗という点では乗用車より長寿命の傾向があるのは、これも1つの原因で、1度エンジンを冷やした後に始動するということを繰り返すのは、エンジンにとって、実はあまり良いことではないのです。

 では、空ぶかしは止めるとしてもう1つの疑問が生じる方もいらっしゃると思います。
 それは、これまで運転経験が何10年にもわたっている方にとって、車によってはアクセルをやや踏み込んだ状態でエンジンをかけるほうが始動性が良いことを経験されたこともあるのではないでしょうか?
 これは、当時のキャブレターや燃料の濃さを調整するチョーク・システムなどの、構造的な理由でそうなっていたのですが、最近の車の場合、これもほとんど必要ありません。
 特に最近は、キャブレター仕様車がほとんど姿を消しており、電子制御燃料噴射装置を搭載している車が大半です。
 その電子制御車の場合、アクセルを踏み込んでエンジンをかけようとしても、本来の意味が無いばかりかエンジンが始動しにくくなるという傾向さえもあるのです。
 これは、電子制御車の場合、吸入空気量だけでなく、吸入空気温度なども測定して、それに応じた適切な必要量を噴射するために、アクセルを踏み込むことで濃過ぎる状態になってしまうからです。
 さらに、もっと踏み込みすぎるとどうなのでしょう?

 例えば、あるメーカーの車の場合、アクセルを7/8以上踏み込んでセルモーターを回すと、ディチョーク制御と言って、何らかの理由でプラグがかぶったのを清掃するために、燃料の噴射を止めて点火だけ続け、プラグをクリーンアップするようになっています。
 私の経験でもこの機能を活用し救援に活躍したのですが、その話はHPの「トワイライト裏業務日誌」の3/11分に掲載しておきますので、興味のある方はご覧ください。
 ディーゼルエンジンの場合、若干違う部分もあるのですが、どちらにしても最近のエンジンの場合、アクセルを多めに踏み込んでエンジンを始動すると逆に始動性が低下する場合が多いと思います。

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