031-011 D-GPSって何のこと?
 現在ナビゲーションを検討しているのですが、カタログを見るとD-GPSという表現があります。
 これが何かよくわからないので、教えてください。
 GPSナビゲーションがアメリカの国防総省が打ち上げているGPS衛星によって、自分の位置を割り出すものであるのは皆さんよくご存知だと思います。
 それではD-GPSとは何でしょう?
 確かにDVDナビゲーションが登場する頃からカタログにもうたわれ始めました。

 GPS衛星からの信号というのは、衛星の軌道情報と時刻情報を信号として発信していて、いくつかの衛星から届く軌道情報と時刻情報(時報のようなもの)によって、ナビゲーションは現在位置を計算しています。
 特に時報は自分の位置から距離が違う衛星からそれぞれ送られた情報なので、受信したときに個々の衛星の時刻情報は微妙にズレが生じています。
 そのズレから距離を逆算して、軌道情報から自分の位置を推定するのですが、実は非常に精度が高く、10mも狂わないはずなのです。

{誤差の背景に軍事戦略あり}
 ここで、アレ?と思われた方も多いと思います。
 というのも、最近ではあまり言われないことですが、GPS衛星の信号は誤差が大きく、100m程度の誤差を生じると言われていたからです。
 どちらを信じてよいかわからなくなりそうですが、実はどちらも真実なのです。
 元々GPS衛星からのデータで計算すると多少の誤差は避けられないのですが、それは先ほど書いたように10m以内くらいの非常に正確なものなのです。
 では、当初、なぜ誤差が大きいなどと言われたのでしょうか?
 それはGPS衛星から発信している信号には2種類あって、軍用モードと民間モードがあり、一般的に使用されているのは民間モードなのです。

 その民間モードは、使用方法を一般に公開しており、どこの会社でも勝手に使って良いようになっています。
 したがってGPS衛星を打ち上げ始めた頃は、まだ東西両陣営の対立は無くなっていなかっただけでなく、第三諸国と呼ばれる国々が次第に技術力をつけてきた時期だったのです。
 そういう時代に、精度の高いGPS信号を一般公開するとどうなるでしょう?
 その信号でミサイルを誘導させることができ、その精度が高ければ高いほど、狙った地点にミサイルを落下させることができるということになります。
 要するにGPSを運用しているアメリカは、民間モードの精度を向上させると、ソ連(懐かしい響き!)をはじめ、慣性誘導技術が未熟な第3諸国までもこれを利用して、最悪の場合アメリカに攻撃を仕掛けてくる危険があったわけです。
 当時の大陸間弾道弾(長距離の核ミサイル)を収納している地下のサイロは、同じ大陸間弾道弾の直撃を受ける場合、100メートル外れたら、致命傷にならないと言われていたのです。

 そこで、民間モードは、無料で使用できるようにする代わりに、誤差も含まれるし、サービスを停止する可能性もあり、それによる損害は保証しないという約束になったのです。
 そういう約束により、地上から見上げた範囲で信号を受信できる衛星(地形によっても異なりますが基本的に8個確認できる)のうちの1つが、わざと誤った情報を発信して、その信号から現在位置を計算すると、誤差が生じるようになっているのです。
 軍事の話が出たので、ついでにご紹介すると、湾岸戦争の頃は、民間モードの誤差がコロコロ変わったのは、民間モードを使用しての反撃を警戒したため、このニセの情報を流していた衛星のデータの誤差を大きくしたり小さくしたりしたわけなのです。

{キツネとタヌキの化し合い?}
 オイオイそんなことは聞いていないよと思われる方もいると思いますが、ここまでの状況によって開発されたのがD-GPSなのです。
 世の中には、上には上の役者が揃っているもので、緯度経度がわかっている地点でGPSによる測定をして、実際の地点とのズレがわかれば、その地点のその時刻の誤差がわかると気づいた人がいるのです。
 そして、その誤差状況を反映して計算すれば、自分のいる地点はかなり精度の高いものになると考えたワケです。
 これがD-GPS(ディファレンシャル・GPS)と呼ばれる方式で、日本では7箇所で誤差測定を行い、その誤差情報をFM放送の電波に乗せて発信しています。
 そのデータをD-GPS対応のナビゲーションは受信して、民間モードで計算された位置からさらにその時の誤差分を補正して、画面上に表示しているのです。
 これは最近のナビゲーションのように、非常に拡大率が大きい市街地図の場合は、ナビゲーションが隣の道路と勘違いしにくくなるためにとっても便利です。
 ただし、FM電波を受信しなければいけないために、アンテナを別に装着するかラジオ用のアンテナから分岐する必要があるので、購入するときにはそういったパーツもお忘れにならないように。

 そして、誤差を補正すると言っても、全国で7箇所しかないデータなので、多少はズレがあることだけはお忘れにならないほうが良いと思います(メーカーの言う誤差10m以下というワケでもない)し、FM放送を受信できない地域では効果はありません。

 え?なら軍事用モードは使えないのかですって?
 同盟国?と言われている日本の自衛隊はおろか、イギリスやドイツ軍だって情報を提供されていないのですから、それは無理な話だと思いますよ。


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