010-028 最近タイヤに空気の代わりに窒素ガスを入れている人がいるけど、窒素ガスのほうが良いの?
メルマガ「クルマとカー用品の常識 ウソ? ホント?」第18号掲載
 最近窒素ガスの充填というカンバンなどをよく見かけますよね。
 空気圧が下がらないなんて書いてありますが、ホントなのでしょうか?
 今回は、このネタを深く掘り下げてみましょう。

 まずは窒素というものが何かご存知ですか?
 何だか難しいモノというイメージを持っている方も多いんじゃないかと思うのですが、実はいくらでもありふれているものなのです。
 空気中の約80%は窒素で、残り20%の大部分が酸素なのです。
 私の知人にこの質問をしたら、80%が酸素で20%が二酸化炭素じゃないかと言いましたが、20%も二酸化炭素があると人間は生きていられないそうです。
 その普段入れている空気の中の80%も占める窒素を入れて何が変わるのか、ちょっとウサン臭い気もしますが、これから解明していきましょう。

 窒素というのは、空気に比べると熱に対して膨張しにくい傾向があるのです。
 膨張しにくいというのは、実はタイヤでは重要な特徴で、ハードな走行をすると、かなりタイヤやホイールが熱を持つために、中に入っている空気も膨張し、当然空気圧もかなり高くなります。
 だから、レースなどでの使用では、空気圧が高くなりすぎて跳ねないように、あらかじめ空気圧を低めにセッティングしているのです。
 ところが、ここで問題が生じます。
 熱を持った状態で、適正な空気圧になるように調整するワケですから、冷えている状態では空気圧不足となり、暖まるまでは性能が出せません。
 F1などでフォーメイションラップと言って、コースを1週する理由の1つには、空気圧不足だと危険だからというのもあったのですが、それだけでは十分とは言えないので窒素を使い始めたのです。
 窒素は膨張しにくいために、暖まっている時に最適になるような圧力にしても、冷えているときに空気よりは圧力の低下が少ないために、冷えているときからタイヤの性能が発揮しやすいのです。

 それでは、これで解決でしょうか?
 いえいえまだまだあるのです。
 窒素の使い方「その2」として皆さんがよく見るケースとして、ポテトチップスや炭酸無しのジュースの中に窒素が封入されています。
 これは、中に入っているものを酸化させないように空気などの代わりに入れているのですが、窒素が入っている理由は不活性ガスだからです。
 タイヤのやホイールの内面も同じで、不活性ガスである窒素を使うことで、劣化が少なくなります。(ただし、これは内側が中心なので、表面を張替えて再使用しない乗用車用タイヤの場合はあまり意味がありません。

 その他の特徴ですが、以前のメルマガで空気圧が春夏より秋冬のほうが減りやすいというテーマを取り上げたことがあると思いますが、そのときの説明に、タイヤの空気圧が低くなる理由として、エアバルブという空気を充填する部分からの漏れだけでなく、タイヤを透過して抜けていく割合がかなりあることを取り上げました。
 その時には、詳しい理由は説明しなかったのですが、これにも実は窒素の効用があるのです。
 通常の空気の場合、水分を含んでおり、圧力を高めれば高めるほど体積に対しての水分の割合が多くなります。
 つまりタイヤの中に水が入っていると考えていいのです。
 その水の水素がタイヤのゴムの水素に親和性があるために、酸素などが結合してタイヤの分子の中に取り込まれていくのです。
 それがタイヤの振動などによって外に排出されるために、空気圧が低下しやすいのですが、窒素だけを充填すると水分が無く酸素も無いために、この作用が極めて少なくなりタイヤ内の圧力の低下が減少するのです。(約半分の減少率になるようです)
 もちろん、今回ご説明したように、気温の低下によっても収縮しにくいために、秋から冬にかけて気温による圧力低下も減少します。
 ここまで説明すると、いいことだらけの窒素のようにも思えますが、一番の問題は価格が高いことです。
 通常の空気充填ではタダ同然なのに、窒素の場合乗用車で500円/1本くらいですから1台で2,000円くらいかかってしまいます。

 さて、よく世間で言われている窒素封入でのメリットで誤解を招くものがいくつかあるので説明します。
 偏磨耗が減少する、燃費が向上するというのは、実は直接的メリットではなく、窒素を使うことで空気圧が低いまま使用されるケースが少なくなるために、結果として向上する可能性があるというメリットなので、いつも適正に調整されている方が、燃費が向上しないと言って、心配される必要はありません。
 もう1つ、乗り心地が向上するというのも同じ理由なのですが、これは空気と同じように調整して比較すると、少し乗り心地が良くなるというデータもあります。
 まだ、科学的根拠は見つかっていないのですが、ひょっとすると酸素より分子が小さい窒素による影響かも知れませんから、もしわかりましたらまたご案内しようと思います。

 というワケで今回のテーマは「ホント」です。

{一言アドバイス}
 乗用車の通常使用時の空気圧というのは、冷えた時に指示値にあわせる冷間調整です。
 その指示値というのは、通常使用で暖まる温度で最適な性能を出すために、冷えたときの数値を逆算して指定しているのです。
 したがって、窒素を入れるときに忘れていけないことは、暖まったときの圧力は冷間からあまり高くならないために、少しだけ指示値よりは高めに入れるのが良いのです。

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